橋田久(刑法)
名古屋大学大学院法学研究科教授
法科大学院における刑法の学修
刑法の学修は、文章を緻密に読む作業を通じて、刑法の基本的な概念や理論を理解し、特に刑法的思考の根幹を成す、構成要件該当性、違法性、責任の三段階の犯罪論体系を自家薬籠中のものとするところから始まります。その段階を過ぎると、次には具体的な事案に立ち向かうことになります。そこでは、事実が持つ刑法的な意味を考え、それまでに修得した基礎知識を応用して、妥当な結論を導くのです。刑法の分野では、振込詐欺、人工知能等、一昔前には存在しなかった問題が、社会の変化や技術の進歩に応じて続々と出現しており、法曹として活躍しようとする諸君にとっても、いずれは避けて通れない課題となるでしょう。しかし、一見目新しい問題も、伝統的な論点に新たな角度から光を当てることによって解決の糸口が見えて来るものであり、論ずるに当たっての基本の重要性に変わりはありません。
学生には、情報が与えられるのを鎮座して待っているのではなく、社会に生起する刑法的問題に対して常に鋭敏であることを望みますが、それに優るとも劣らず大切なのは、体系書を韋編三絶に至るまで精読する、必ず条文を確認する等、基本を疎かにしない姿勢です。そのような地道な勉強方法が、長い目で見れば最も効率的なのです。